Bluemy Entertainment代表取締役社長・師﨑洋平が語るライブハウス構想
「現場から音楽業界を盛り上げたい」、キーワードは「解放」と「エンタメ化」



―まずは会社の設立に至った経緯を教えてください。


師﨑:僕は1999年からバンドを19年間やってきて、ライブハウスマンとしては今年で9年目です。20代のうちはバンドで事務所に所属して、音楽で食べてたんですけど、2010年に一回活動休止をしたときに、前職の下北沢ReGでバーのバイトを始めました。それから3年して、ブッキングを担当するようになった中で、今のライブハウスはこれからのバンドたちとディープに関わることが難しい環境になってきてるんじゃないかと感じたんです。なので、さらに2年後に「NEWScript」というブッキングチームみたいなものを立ち上げて、まだリリースに至っていないバンドをいろいろな形でサポートしてきました。自分のバンドは昨年解散してしまったんですけど、「NEWScript」でやってきたことを自分の生き方の真ん中に持ってきたいと思うようになり、会社を作ることにしたんです。


―現在は3年後の2022年に向けて、新しいライブハウスの立ち上げを目標に掲げているそうですね。


師﨑:僕は本当にライブハウスに育ててもらったと思っていて。それは音楽的な部分だけじゃなくて、人間としてもそう。挨拶から自分のコントロールの仕方まで、ライブハウスの人に叱られながら育ててもらったので、自分にとっては学校にも近いというか。なので、ライブハウスは今後も絶対に必要だと思ってるんですけど、現状ではいろいろな問題を抱えていて、このままだとどんどん数が減っていってしまうかもしれない。なので、ライブハウスをこれからも守っていきたいからこそ、メスを入れるところにはメスを入れていかなくちゃいけないと思っています。


―師﨑さんのブログには「ライブハウスを解放せよ-RELEASE THE LIVE HOUSE-」というタイトルが付いていますが、これにはどんな意味があるのでしょうか?


師﨑:昔のライブハウスって、もっといろいろな方々が出入りしていたと思うんです。それは、当時ライブハウスがもっと新しくてカッコいい場所だったからなんじゃないかと思うようになってきて。でも、最近はそうじゃなくなってきて、出入りする人も限られてきていると思う。同じような種類の人しか集まらなくて、バンドマン、カメラマン、イベンター、お客さんで9割みたいな感じだから、もっといろんな人が出入りできる場所にして、そこからいろんな関係値が生まれるといいなと思っていて。


―「解放」して、幅広い目的で使える場所にすると。


師﨑:例えば、ライブハウスにとって平日の昼間はデッドタイムだから、そこをママ会に使ってもらってもいいと思うんです。とにかく、「ライブハウス」という言葉のイメージを変えて、いろんな種類の人に使ってもらいたい。昔の一部のライブハウスみたいに喧嘩が起きてるわけではないにしろ、基本は地下で、暗くて、狭くて、ネットも繋がらない、みたいな印象は拭えてない気がして。クラブの方が危ないイメージかもしれないけど、「オシャレ」とか「かっこいい」っていうイメージは断然上で、ライブハウスの方が「マニアック」っていう括りだと思うんです。


―「ライブハウス」という響きが今の時代にはちょっと堅いのかもしれないですよね。


師﨑:名前自体を変えるという考えもあったんですけど、でも僕はやっぱり「ライブハウス」という言葉が好きなんです。なので、そこから逃げるのではなく、イメージを変えていけば、新しいものがきっと生まれると思う。そうやってライブハウスという場所を解放していくことによって、もっといろんな人に見てもらえる機会を作ってあげられれば、バンドももっといい音楽を作れるようになると思うんです。これは自分の実体験なんですけど、自分しか聴いていない状態の曲はまだゼロで、人の耳に触れることによって、自分の理想に近づくんです。やっぱり音楽って、人に何かを言われるよりも、自分で何かを感じて、それが次の作品に生かされるっていうのがナチュラルだと思うから、それを誘発させられる環境を作りたい。音楽業界全体を盛り上げるためには、人気のバンドが増えることが一番早いし、覚悟を持って、現場を元気にしていきたいんです。


―同じくブログには「ライブハウスをエンタメ化する!」とも書かれていますね。


師﨑:現状のライブハウスのイベントって、例えば、バンドが一日5個出るとして、25分とか30分の演奏時間があって、10分で転換して、また次のバンドっていうのを5回繰り返して終わり。どうしてもルーティーン化してしまっていることが多くなっているように思います。でも、例えば、ダンスのイベントを観に行くと、ショーの合間にコールの時間があったり、DJを挟んだり、一個のイベントとして「楽しませよう」という姿勢をすごく感じるんです。それに比べて、ライブハウスは同じことの繰り返しで、これも決まった人しか来なくなった理由のひとつかもしれない。なので、もっと「エンタメ化」が必要だと思う。たまたま友達に誘われて初めてライブハウスに来た子が、「ライブハウスって楽しい場所だね」って思ってもらえるように、もっとできることがあるんじゃないかなって。


―現状では、どんなアイデアをお持ちですか?


師﨑:やっぱり、今の時代に重要なのは口コミなので、お客さんが「今日はライブハウスに行ってきました」ってSNSにアップして、それを見た人が「素敵!」とか「羨ましい!」って思ってもらえる場所にするべきだと思うんです。でも、ライブハウスに来たお客さんが撮る写真って、看板がほとんどだと思いませんか? カフェとかに行ったら、美味しそうなご飯と、素敵な入口と、着飾った自分たちをきれいに撮って、それを見た人が「私もこのお店に行ってみたい」ってなるわけじゃないですか? でも、看板だけだったらなかなか伝わらないですよね。だったら、例えば、ライブハウスの中にフォトブースを作って、そこにライブハウス専属のカメラマンがいて、かっこよく、可愛く写真を撮ってくれるとか、そうすればそれをSNSに上げて、行ってみたいと思う人も増えると思うんです。


―フェスが一般層まで浸透したのはそういった部分が大きいですよね。ただ音楽を楽しむだけではなく、アミューズメントパーク化して、誰が来ても楽しめるような場所になって行った。もちろん、ライブハウスとは規模感が違うわけですけど、でも同じベクトルでライブハウスなりにもっとできることはありそう。


師﨑:フェスはいろんな楽しみ方ができると確約されているからみんなが行くんだと思います。でも、ライブハウスは自分の目当てのバンドまでどう過ごしていいかもわからないし、演奏して、物販があって、それで終わりっていうのは、一晩の時間の作り方としてはちょっと雑ですよね。フェスのようにいろんな過ごし方を提案するのはライブハウスでは難しいですけど、でもそれも考え方次第だと思う。土地柄やスペースの広さはライブハウスによっても様々だから、「うちはこう、うちはこう」って、ライブハウス界全体で、いろんな楽しみ方ができる空間にしていく流れを作れればなって思うんです。


―近年は様々な動画配信サービスが充実していて、ライブハウスを使わなくても、個人でライブ配信ができる時代になってきています。そんな中において、ライブハウスの存在意義をどのように考えていますか?


師﨑:僕もそこは気になってはいたんですけど、最近ネットミュージック界隈の知り合いも増えてきて、彼らはこれからますます「生で見れる」ということに価値が出てくると言ってるんです。配信はどうしてもデータの世界なので、そこに大きな価値を見出すのは難しくて、安価にせざるを得ないから、興業として成り立たせるのが難しい。やっぱり、「その場で見せる」というのが頂点なんです。なので、これから考えるのは一回のライブを複数の方法で見てもらうということで、例えば、大きいホールで実際のライブをやり、ライブハウスではアミッドスクリーン(透過スクリーン)を使ってそれを映して、そこにも来れない人はVRゴーグルで家で楽しむ。料金はそれぞれ1万円、2000円、500円とか。そう考えると、やっぱりライブハウスは必要で、逆に言えば、VRが当たり前な時代が来る前に、いろんなお客さんが出入りしやすい空間にしておくことが、より大事になると思うんです。


―駆け出しのバンドマンに対するアプローチはどうですか? 彼らはノルマ代を払って、一生懸命お客さんを呼んで、わざわざライブハウスに出るよりも、タダでたくさんの人に見てもらえる可能性があるライブ配信を重視するかもしれません。


師﨑:ミュージシャンとして大切なことを学んだり、成長したりって、ライブハウスに出るのが一番早いと思うんです。「ずっとネットでやっていく」という考えならまだしも、いずれ「表に出る」という活動方針であるなら、いくらネットで跳ねたとしても、やっぱり生でお客さんをビビらせられなかったら、ミュージシャンとしてはダメだと思う。なので、腕を上げる場所としてライブハウスを使ってほしいし、逆に言うと、ライブハウスの人間は彼らを支えられるように、もっともっと音楽に明るくないとダメだと思います。そうじゃないと、若い子はライブハウスに価値を見出してくれない。でも、今のライブハウスにそれが足りてるのかな? っていうのは正直思います。自分の考えを押し付けるんじゃなくて、求められたことに応えるというスタンスが大事で、ライブハウスのことだけじゃなく、「どうしたらもっとネットで聴いてもらえますかね?」という質問にも答えられなきゃダメ。どんな質問が来ても返せるように、これからのライブハウスマンはいろんなところにアンテナを張っておくことが大事だと思うんですよね。


―新たなチケッティングのシステムを現在試験運用中だとお伺いしました。


師﨑:普通のお店だったら、来てくれるお客さんのデータを集めて、ニーズを調査して、もっと来てもらえるようにすることって当たり前のことじゃないですか? でも、ライブハウスが持ってる「お客さん」のデータは、バンドやイベンターのデータで、お金を払って見に来てくれるお客さんは「お客さん」で一括り。一人ひとりがどんな意見を持っていて、どんなニーズがあるかということを拾える状況にないことが多いんです。そういう状況を改善するために、「プレイガイドをライブハウスごとに持つ」みたいなことをイメージしていて。この間実際に使ってみたら、ちょっとですけど予約があって、そうすると、「誰々のイベントに、誰々が目当てで見に来た」みたいな、その人の情報がライブハウスに積んでいける。それを基に、ライブハウスの側からお客さんに宣伝とかができる、そういうチケッティングのシステムを考えています。それによって、ライブハウスとお客さんの距離も縮まると思うし、バンドも喜ぶ。あとはキャッシュレスもこれから進んでいくでしょうね。もちろん、問題はいろいろあると思うんですけど、ベクトルは間違っていないと思うので、早い段階で使いやすいシステムになれば、各ライブハウスに薦めていきたいと思っていて。


―自分のライブハウスだけではなく、知識や技術を共有していこうと。


師﨑:自分のライブハウスがどれだけ埋まったとしても、それはデータとしては非常に微力で、場所が変われば人も変わるし、自分だけで結論を出そうとはせず、いろんなデータを掛け合わせることによって、いずれ大きな結論が出せればと思っています。都内のライブハウスは横の繋がりが薄くて、何なら取り合いになってたりもするんですけど、本当は全体で盛り上げることが大事で、その方がバンドもやりやすくなると思うんですよね。


―ライブハウスには長年かけて積み上げられてきた素晴らしい文化があるわけですけど、それでも時代とともに変わっていかなくちゃいけない。レコード会社にしてもそうで、日本はどうしても一度できたものを守る方向で考えがちですが、大事なものは受け継ぎつつ、変えるべきところは変えていく、そういうタイミングが来ているように思います。


師﨑:いま音楽業界全体の元気がないのは、これまでの慣例が足を引っ張ってる部分があって、それをわかりながらも「うーん」っていうのが現状だと思います。でも、そろそろ変わってもいいんじゃないかと思うことが多々あって、それは本当に、ライブハウス以外もそうだっていう感覚がもちろんあります。危ない革命家になるつもりはないので(笑)、どうやったらみんながハッピーになれるかを考えて、プロセスを共有しながら、みんなで結論を出していきたくて。


―やはり、ライブハウスを「解放」して、多くの人に関わってもらいたいという気持ちが強いんですね。


師﨑:そうじゃなかったらダメだと思います。うちのライブハウスができたときに、「遂にできた!」って喜んでくれる人が一人でも多くいてほしい。もちろん、自分たちが作りたいからライブハウスを作るわけですけど、「作ってほしい」と思われる自分たちでいられるかがすごく大事で、そのためにいま微力ながら動き始めて、応援してもらえるように頑張る。そこはいま会社としても一番大事にしているところです。


―目標は2022年のライブハウス立ち上げ。でも、それはゴールではなくて、その先には「音楽業界全体を盛り上げる」という夢があるわけですよね。


師﨑:今の音楽業界は苦しいところばっかり目に付いちゃって、「CDが売れない」という言葉が一般的になっちゃってますよね。そんな中で今の自分にできることは、ド現場から「やりましょう!」と声を上げることで、諸先輩方もそういうところから頑張って、今業界のトップにいる方も多くて。なので、自分も今いる場所から無理に上ろうとするんじゃなくて、とにかくその場でワーッて必死にやって、ライブハウスという自分の原点を盛り上げたいんです。僕が音楽の世界に入ったときはちょうどインディーズバブルで、CDが200万枚とか売れて、新しい、カッコいい音楽でたくさんの人を熱狂させていることに憧れた人がめちゃめちゃいたし、僕もその一人。でも、今は現実のことばっかり伝わっちゃってる。「音楽で食っていくのは難しい」とか「ボーカルだけしか食えないらしい」とか、そんな話ばっかりで。


―一般の人が印税の話をしたりするような時代ですもんね。


師﨑:夢を語りづらくなっちゃいましたよね。でも、僕はバンドは衝撃から始まるものだと思うんです。現実よりも、夢や情熱がバンドを始めるきっかけになる。それを音楽業界がバンバン発してないとダメだと思う。もちろん、現実の問題はあります。でも、それが見えなくなるくらい夢や憧れを語って、とことん考えて、実際に動いて、変えていかないと。それに影響を受けて、「俺も、私もやってみたい!」って思う人が一人でも増えてくれたら嬉しいです。


Interview by Atsutake Kaneko